前回に引き続きジェラルド・クリックスタイン著
「成功する音楽家の新習慣」より、今すぐ使える本番に強くなるための3つの対策を抜粋して紹介していきたいと思います。
前回の練習の記事についてはこちらから
https://iguitarlesson.com/review_musician_habit/
第1部では練習の仕方から音楽的な練習まで事細かに書かれていますが
第2部では人前の演奏でどのようにしたら良いかということが書かれています。
その中から主な原因とその対策を個人的意見の補足とともに書いていきます。
目次
演奏不安とは何か
自分が舞台に立って演奏を始めつところを思い浮かべてみよう。客席は静まり返る。全ての人の目が自分に注がれる。最初のフレーズを繰り出すと空間が音楽に満たされる。不安など全くなく、コンサートという場面に望んで集中力が高まりイマジネーションが沸き起こる。演奏は正確で、音からは感情がほとばしる。自分も聴衆も音楽の世界にすっかり引き込まれる。本番で演奏する時、だいたいこのシナリオのような経験ができているだろうか?
成功する音楽家の新習慣 143ページより
全ての演奏家がこのようにできればいいのですが少なくない演奏家(プロ・アマを問わず)が
ミスや失敗のことにとらわれながら演奏しているのではないでしょうか。
声楽家であれば喉がカラカラになり最後まで歌いきれるか自信がない。
ピアニストやギタリストであれば手が激しく震えて間違いだらけ。
練習では弾けるのに自分でも不思議でしょうがない。
など多くの人がいつもできていることができなくなってしまいます。
ほぼ全ての音楽家が一度は演奏不安に陥っており、プロの演奏家の25パーセントがあがり症に悩まされていると紹介しています。(実感としてはさらに多くの人が少なからず悩んでいると思います。)
演奏不安の発言を招く心理的要因としてもっとも重要なのは、演奏者が演奏の結果を心配している、または恐れている時、つまり演奏者がよくない結果や失敗するばかり考えている時である
145ページより
演奏者が音楽的なことよりも、ミスや失敗のことばかり気にしている時に緊張が大きくなり
「演奏不安」や「あがり症」につながってしまします。
ですのでミスや不安を考えないように練習していくこと、スケジューリング、プログラミングしていくことが重要であると示唆しています。
以下に本書で紹介されている内容の要約とその対応策を補足していきます。
1 不安からの逃避
本番に弱いことを気にしていたカレンはオーディションのためにメンタルトレーニングの本に書かれたことを色々と試しているようだったがあがり症は改善されなかった。
著者が「メンタルトレーニングのことではなく音楽面についてはどう?曲を練習し始めたのはいつ?」と聞くと10日前との返答。
オーディションの前はいつも忙しく十分な練習ができないとのこと。
彼女はオーディションが決定すると、決まって色々なプロジェクトに手を出し練習がおそろかになってしまっている様子だった。
著者は練習スケジュールをしっかり立ててその通りに練習してみてはどうかと提案したが、
演奏不安について正面から向き合わず、教える仕事とガーデニングに精を出した。
と紹介されています。
演奏前は不安や緊張から練習したくなくなってしまうことが多々あります。
これはプロアマ問わずみられる現象だと思います。
1の対応策
これは心理学用語でいうセルフハンディキャッピングというものです。
テスト前に無性に机を掃除したくなった経験が一度はあるかと思いますが(自分もそうでした)あらかじめ自分にハンディキャップを課しておくことで心理的ダメージを少なくすることです。
いわば現実逃避ですね。
できない言い訳や予防線を張っておくことで結果が良くなかった時は「あの時掃除さえしなければ」という言い訳ができ、思いの外結果がよかった時は「何もしなくてもできる自分スゲー!」ということになります。
1の例ではカレンはオーディション前をわざと忙しくすることで練習できない言い訳を作り、オーディションに合格できなかったのは自分の実力ではなく忙しさのせいだと言い訳を作ってしまったということです。
著者も提案している通り
本番から逆算して練習スケジュールを作っておくことで本番前に練習をしたくなくなる状況もかなり軽減できると思います。
個人的には本番1ヶ月前にはいつ人前で弾いても安心できる水準まで持っていくことをお勧めします。もちろんその通りに行かないこともありますが、なるべく早めに仕上げておいて損はありません。
多くの方が本番前日あたりにピークを持って行こうと考えますが、それではセルフハンディキャッピングでやる気が起きなくなった時に未完成のまま本番を迎えることになってしまいます。
そうならないための練習スケジュールをもう一度見直してみましょう。
2 思い込みにとらわれる
次のコンサートが心配でしょうがないアレックス。
祖父母が聞きに来る予定で、今度のコンサートで良い演奏ができれば祖父母が音大の学費を出してくれるのではないかと考えている様子。
しかし、直接祖父母が学費を出すと行ったわけではないにも関わらず心の中で妄想してしまっているらしい。
祖父母は音楽に精通しているわけでもないので、著者が落ち着いて演奏すれば出来不出来に関係なく楽しんでくれるだろうと諭すとアレックスは自分の勘違いに気付き混乱していた頭を整理できた。
その結果、安定した演奏ができ祖父母が学費を出してくれることが決まった。
という話。
多くの人がこのように起きもしないことや勝手な想像で自分自身を苦しめていることがあります。
2の対応策
ここでは先のこと、他人の評価を気にして自分自身の緊張やプレッシャーを高めてしまっています。自分を緊張させているのは他でもない自分ということです。
他の人が自分の演奏をどう思うかということはコントロールできないことなので自分のコントロールできることに意識を向けてみましょう。
ですので、本番当日はとにかく演奏に集中することに全神経を注いでみてください。
「今できることに集中する」ということです。
舞台袖で待っている時に「あそこの運指はどうだったか?」「最初の音は何フレットだったか?」など不安が込み上げてくることがあります。
一々その心の声全てに答えていたらどんどんと不安が増幅していきます。
ですのでその問いには答えず、今できることは何かをもう一度頭の中で唱えてみましょう。
深呼吸をして、この本番をどう迎えたいか、どう弾きたいか。
楽しく弾きたいなら楽しく弾いている自分を想像してみましょう。
心拍数は下がり、不安も膨れあがらずに本番に臨めるはずです。
たとえミスした音を出してしまってももう取り返しがつかないのでまた「今できること」に戻る、つまり次の音に集中するということです。
一度勇気を持って試してみてください。
また、聴衆が皆批判的な耳で演奏を聴いているという思い込みも捨てましょう。聴衆は演奏を楽しみに来ているのであって、間違いを数えに来ているわけではないということを本番前に思い出してみましょう。本人が楽しんでいないのに聴衆が楽しめるわけがありません。完璧な演奏よりも楽しませる演奏を目指してみましょう。
3 スキル不足
カミーユは学校の成績は優秀だが本番でどうしても硬くなってしまう。子供の頃のピアノの発表会での失敗が尾を引いて重度のあがり症に悩まされて一度ピアノをやめてしまう。
改めて個人レッスンを習うことになり、反射的に演奏できるように練習しているだけだったことに気づいた著者が適切な練習方法や暗譜の仕方、プログラムを変えるなどを変えたところ本番でのパフォーマンスが上がり、ピアノに対する情熱も蘇った。
という話。
ここでは適切な練習ができていないことと、実力にあっていない曲を選んだことが本番でのパフォーマンスを下げてしまっていた原因のようです。
3の対応策
ただ指で覚えるだけの練習から卒業することで音楽的なことに集中でき、演奏に集中できるということが期待できます。
深く練習する方法についてはぜひ本書を買ってじっくり読んでいただきたいと思います。
今すぐできる対応策としてはプログラムを考えるということです。
多くの人が自分の好きな曲、かっこいい曲を弾いてしまいがちです。
だいたいかっこいい曲や派手な曲というものは難しい曲が多く、実力以上のスキルを必要としてしまいます。
ですので本番のパフォーマンスに悩んでいる方は一度目を瞑っても弾けるくらい簡単な曲を人前で演奏してみてください。
技術的なことを気にしなくて良い分だけ音楽的な表現に意識を向けられます。
もしここで「ああ弾きたい、こう弾きたい」ということが出てこない場合は音楽的な練習が足りていない可能性が高いです。
プログラムを考えると同時にぜひ音楽的な表現を練習する時間を設けてみてください。
最後に
本番でのパフォーマンスで悩んでいる方は多いと思います。
今回の3つの対応策で少しでも参考にしていただければと思います。
長文を読んでいただきありがとうございました。
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