今回はコンクールに参加するための準備と心構えについて書いていきます。
先日クラシックギターの生徒さんから「コンクールに出場したい」と言われまして、これを機に自分の経験と反省を踏まえて情報を共有したいと思います。
コンクールに参加したいけれど、どんな準備をして良いかわからない方から上位入賞を狙いたい方まで参考にしていただきたいです。
目次
コンクールに出場するには
まずコンクールに出場するには各コンクールの応募要項を確認しましょう。基本的にコンクール当日、会場にて来年の募集要項が配られます。
ホームページやSNSを見てもまだ更新されていないことがありますのでコンクール事務局に問い合わせてみるのも良いでしょう。
- 日時
- 場所
- テープ審査課題曲
- 予選課題曲と自由曲
- 本選課題曲と自由曲
を必ず確認しましょう。
テープ審査曲
テープ審査曲は
基本的に応募用紙、参加費と共に録音した課題曲を(CD、DATなど)に録音したものをコンクール事務局に送ることになります。
この際、録音した媒体が他の機器でも再生されるかどうかしっかり確認しましょう。
PCでは再生されていても、他の機器では再生されないことが稀にあります。(またはその逆も)
再生しても無音で失格になった人の話を聞いたことがありますのでご注意を。
予選課題曲
多くのコンクールでは予選課題曲を一曲のみ弾き、本戦へ進む6人程度を選出します。
コンクールでは予選課題曲が勝負の分かれ目と言っても良いでしょう。準備はこの予選課題曲のクオリティを上げていくことをまず考えましょう。
気をつけることは楽譜の版指定です。
同じ曲でも編曲者によって調が変わっていたり、装飾音や音数が違うことがあります。
違う版で弾いた場合には失格、または大きな減点となりますので必ず確認しましょう。
予選自由曲
予選課題曲と時間制限付きの自由曲を演奏できるコンクールもあります。
時間超過は失格、または大きな減点となりますのでコンクール応募前に必ず録音して時間を測りましょう。精神的安心のために30秒は余裕を持って弾き終わる曲をオススメします。
また、2曲弾く場合は調弦の時間も演奏に含まれます。1曲目の最初の音から調弦を含め2曲目の最後の音までを測りましょう。
自由曲が演奏できるとはいえ、課題曲の方が比べる箇所が多く差がつきやすい事に変わりはありません。
どうしても自由曲の方が得意で楽しく、ついつい練習量が多くなってしまいがち。
戦略的に言えば課題曲を高いレベルで演奏できる方が得点は高くなることを肝に銘じておきましょう。
本選課題曲、自由曲
本選まで残ることができればあとは持てる力を最大限に発揮する以外にする事はありません。
後述の選曲などを含めて戦略的に臨みましょう。
コンクール出場に必要な要素と対策
コンクールで審査されるであろう要素をまとめていきます。
レーダーチャートにするとこのように8つの項目に集約することができます。
レーダーチャートの面積を大きくすることを目指して戦略的に練習に取り組んでいきましょう。

1.技術力
技術力は誰もが一番比べやすく耳につく要素と言っても過言ではないです。指の回り、正確性、ミスの少なさ、多くのコンクールはこの要素を高めることによって高得点を取ることができ、審査員からの印象も良いと思います。
対策
課題曲と自由曲に出てくるテクニックを分析して練習メニューを作りましょう。
得意な部分をさらに伸ばす事は難しくありません。しかし、苦手な部分となると精神的に辛いこともあると思いますので最低限必要な部分を底上げするつもりで取り組むと良いでしょう。
例えばアルペジオの正確性が足りていないと感じたならば、
- 色々なアルペジオを弾いてみる
- 苦手な指を多用するアルペジオパターンを自分で考える
- 右手の運指を変えて弾けないか工夫する
スケールが苦手と感じるならば
- 半音階の練習を取り入れる
- スケール練習を取り入れる
- 弦をまたぐ時の右手の動きを最小限にする
- 右手のフォームを変えてみる(微調整する)
など自分に足りないものを底上げできる可能性を探ってみましょう。
左手に力が入ってしまう人は脱力するタイミングを探してみたりフォームを見直してみるのも良いかもしれません。指の独立するエクササイズも取り入れてみると力みは少なくなると思います。
すぐに結果が出るとは限りませんが長期的(数ヶ月から一年)に良い経験、学びになると思います。
2.音楽性
音楽性は抽象的で審査員の意見が分かれるところです。自分の内側から湧き上がってくる「この曲をこう弾きたい」という確信が演奏に説得力を持たせて審査員の印象を左右します。
対策
音楽性は今まで聴いてきたものや体験してきた事の上澄みと言っていいでしょう。
色々なギタリストの演奏を聴いたり、他の楽器の曲を聴いてイメージを膨らませてみましょう。
大事なことは「自分ならどう弾くか」を考えてみることです。
その曲を弾ける技術力が自分にあるかどうかは一旦置いておき、自分ならどうやって弾きたいかと思いを巡らせてみる。
この演奏者はもしかしたらこう思って弾いているのかもしれないと仮説を持って聴いてみると色々な発見があると思います。
「ギターの演奏を聴く」「演奏について考えてみる」時間を作ってみましょう。
大切なことは答えを見つけることではなく、自分なりの意見を持つことです。
3.表現力
自分の音楽性を的確に表現する能力。または曲の意図を的確に汲み取る能力。
技術力と同じような能力にも感じられますが違った能力が必要になります。
対策
フォルテと書かれているから強く
ピアノと書かれているから弱く
指示通りに弾くことから卒業して、なぜそういった指示があるのか自分なりに考えてみることから始めてみましょう。
また、楽譜の指示とは正反対に弾いてみるのも面白いでしょう。
ピアノをフォルテに
リタルダンドをアッチェレランドに
クレッシェンドをデクレッシェンドに
色々な実験をしていく上で色々な引き出しが増えていくと思います。
大事なことは「感情(イメージや色彩)が先にあって、体がそれに反応して音が出る」という順番です。
クレッシェンドしたから盛り上がっていく様に聞こえるのではなく、盛り上げたいからクレッシェンドにするということです。
この順番があべこべになっていることが多いのではないかと思います。
練習の時からイメージして音を鳴らしましょう。
4.音楽理解度
曲の読解能力とも言えます。
例えば、一口にアクセントと言っても全てが同じように強く弾けばいいということではありません。
周りの音より目立たせるだけなのか、音が汚くなるほど強く弾くのか、色々な背景をもとにどのように弾くか決められるはずです。
時代、作曲家、音楽理論などから考える必要があります。
対策
ギターを弾く事以外の情報収集をしてみましょう。
例えば音楽理論を少し勉強してみると、「なぜこの作曲家はこの和音を選択したのか?」という疑問が解決するかもしれません。他にも曲の背景を知る事でインスピレーションが湧いてくることがあります。
- 作曲者、曲の背景
- 時代背景(バロック、古典、ロマン派、印象派など)
- ヨーロッパの歴史(フランス革命、産業革命、パリ万博、第一次世界大戦、世界恐慌)
- 美術、建築、彫刻、哲学などの歴史
- キリスト教の歴史
- スペインの歴史
- 日本の歴史・宗教・音楽
色々な背景や知識があると取り組んでいる曲へのアプローチが変わってくるでしょう。
答えを探すのではなく、あくまで解釈の幅を広げるためのヒントを増やすイメージです。
5.精神力
コンクールでは審査員の視線を気にせず自分の演奏に集中する精神力、またはメンタルコントロール力が必要になります。
多くの人が本番でうまく弾けずに落ち込んだことがあると思います。
どんなに練習していても本番は練習と環境が変わりますので人前で演奏することに慣れていく必要があります。
対策
まず始めに自分の演奏を録音(または動画撮影)してみましょう。
録音機器(スマホ等)は2〜3m離しておくと自然な音が録れます。
慣れないうちは録音ボタンを押した瞬間から緊張してしまう人が多いと思います。動きが硬くなったり、指が震えたり、ド忘れしたり、いつも間違えないところで間違えたりするはずです。
録音された演奏があなたの本当の実力です。
もう一度録り直したい気持ちをぐっと堪えて録音した演奏を聴いてみましょう。
自分の演奏を受け入れて、客観的に聴いてみることが大切です。
録音が上手くいかなかった方は「今できる事を全て出し切る」事を心がけましょう。まだ弾き切れない部分や不安定な部分もそのまま曝け出して弾いてみましょう。
後々の成長の記録として良い資料になります。
完璧を求めるとプレッシャーがかかり過ぎてどうしても縮こまった演奏になりがちです。今の自分がどこまで出来て、どれほどできていないのか知ることが大切です。
次のステップは人前で演奏してみることです。
ギターサークルや発表会などを探して、人前で弾けるチャンスが有ればなるべく参加しましょう。
この時も合言葉は「今できる事を全て出し切る」です。
コンクール当日の演奏もやる事は同じです。自分の出来ることに集中しましょう。
6.選曲
コンクール用の選曲をじっくり考えましょう。
自分の弾きたい曲(練習している曲)とコンクールに向いている曲が一致しているとは限りません。
審査員はステージ上での演奏でしか審査してくれません。自由曲がある場合は自分の得意な部分を出せるだけでなく、色々な面を発揮できる曲が求められます。
対策
自分の弾きたい曲を弾くのではなく、審査員は何が聴きたいのかを考えてみましょう。
審査員はあなたの事を一度も見た事がなければ聞いたこともないと仮定します。
その審査員はたった数分間のあなたの演奏を聴いた後に、その演奏を評価しなければいけません。
- 難しい曲を弾ける技術力
- 映像が浮かんでくるような表現力
- 時代によって弾き分けることができる音楽理解度
これらを審査員に伝えられる曲を自分なりに考えて探してみましょう。
課題曲と自由曲どちらも弾ける場合は曲の時代(バロックと現代など)を変えると色々な面を見せることが出来ます。また、課題曲だけでは表現できない部分を補うような選曲を心がけると良いと思います。
7.楽器
良い楽器で出るに越したことはありません。
ここでの良い楽器とは
- 大きい音が出る
- 遠くまで音が届く
- 音の分離が良い
ことを指します。
コンクールの審査では音が大きい方が審査員への印象は良いですし、演奏する側としても軽い力で大きい音が鳴ってくれることは技術的に楽であることが多いです。
悲しいことではありますがコンクールにおいて音量=正義です。
対策
今の自分の楽器に満足しているなら楽器を変える必要はありません。
楽器を変える時期というのは「鳴らしたい音がこの楽器では鳴ってくれない」と不満を持った時です。
もちろん自分の実力が足りないことが原因のこともありますが、不満がある様なら楽器店で色々と試奏してみると良いでしょう。良い楽器が音の出し方を教えてくれるということがあります。
今持っている楽器の2倍から3倍の値段を目安に考えましょう。概ね100万円以内の楽器では値段と楽器の質は比例すると考えて良いでしょう。例外もありますが実際に弾いてみて自分の耳を信じて買いましょう。
可能ならギターを弾いている人について来てもらい、音量、音質、遠鳴りを確認してもらいましょう。
結局は自分が一番しっくりくるギターがいいギターです。ネームバリューに惑わされずお気に入りの楽器を見つけてください。
その前に大事なことをひとつ。
まず自分の音をじっくり聴いて練習することです。
楽器のポテンシャルをしっかり出せる様に、そしてなるべく大きく、遠くに音を飛ばせる様に練習することを心がけましょう。
もちろん音質にもこだわりましょう。そのためには右手のフォーム、弾弦角度、爪の磨き方や削り方、形にも色々な試行錯誤が必要になると思います。
大きい音が出ないことを楽器のせいにするのではなく、まず自分にできることを一つずつ確認しましょう。楽器を買い替えるのはその後でも遅くはありません。
8.自己理解
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
という言葉がある通り、コンクールのことだけではなく自分のことを知ることが大事です。
多くの人は(自分も含めてですが)人には厳しく自分には甘いものです。
自分の得意分野を伸ばし、苦手な部分を知り向上させることが出来ればコンクール入賞が近づくはずです。
対策
自分を知るということはとても怖いことです。自分の弱い部分を直視しないといけないからです。
しかし上達する上で必ず通らないといけない道です。自分の長所で短所をカバーするにも限界がありますので、苦手な部分やできない部分を把握して練習メニューに取り入れましょう。
まず自分の演奏の強みを書き出してみましょう。
例えば
- 右手(左手)の動きの速さ、正確性
- 音の聴き分け
- 旋律の歌わせ方、表現力
- 音楽性や知識の豊富さ
- ここぞという時の勝負強さ
などが挙げられるでしょう。
自分の長所はこれからも自信を持って磨き上げていきましょう。
対して今度は自分の弱みを書き出してみましょう。
- 右手(左手)がもたつく、持久力がない
- フォームが悪い、体が硬い
- 本番に弱い
- リズム感が悪い
- 音楽の幅が狭い
など上がるかもしれません。
全てを変えることは大変です。
できそうなことから練習メニューを考えて少しずつ取り組んでいきましょう。
自分で調べたりできないこと、わからないことはプロのレッスンを受けてみると良いでしょう。思い込みにハマっていて、考え方を少し変えるとすぐに解決することがあります。
自分の弱い部分を見つめることは伸び代を見つけることでもあります。
勇気を持って取り組みましょう。
以上で8つの要素と対策について終わります。
ここからさらにコンクール対策のポイントを紹介していきます。
審査員の気持ちを考える
コンクール当日の審査員は激務です。
多い時で50人程の予選課題曲を聴いて一人ずつ点数をつけてその後すぐに本選を審査します。審査員も人間ですからずっと集中しているということはないでしょう。
つまり、「この人は審査するまでもないな」と思われるとそこそこの適当な点をつけられてしまいます。
実は舞台入場から審査は始まっていて、「この人は自信がありそうだ」「この人は上手そうだ」と思われる立ち振る舞いが大事です。審査員を聴く姿勢にさせましょう。
ですので普段の練習からお辞儀や入場の練習もしておきましょう。
そして演奏開始10秒で審査員が聴いてくれるかくれないかの勝負が決まると思って練習しましょう。
コンクールを狙い撃つ
コンクールは一つに絞りましょう。多くても年に2つまでです。
戦の大原則は各個撃破。自分の戦力を一つ集中することがセオリーです。
無闇矢鱈にコンクールに出ることは、多少経験になることはありますが練習時間の分散になりお勧めできません。
1年前から準備する
可能であればコンクールの募集要項が出る日、1年前から準備していきましょう。
上手い人でも油断して課題曲が甘かったり譜読みが甘かったりするのを何度も目の当たりにしました。そうならないように抜かりなく着々と準備していきましょう。
他の人の演奏は聞いた方が良いか?
人により意見が分かれるところですが、個人的には人の演奏を聴かない方が良いと思っています。
上手い人の演奏を聴くと自分と比較してしまい自分の演奏が不安になる。
ミスした人がいれば自分のミスを想像してしまい不安になる。
メンタルコントロールが上手くない人は他の人の演奏はじっくり聴かない方が良いかもしれません。
しかし、会場で数人の演奏を聴いてホールの響き具合を確認しておくのは良いと思います。
コンクール毎に対策した方が良いか?
コンクールによって採点基準に偏りや傾向があるとは感じますが、それに合わせて自分の演奏を変化させる事はかなり難易度が高く、一部の実力者にのみ可能な芸当です。
まずは実力があってこその個別対策です。
まず自分に必要な実力を高めた上で余裕があればコンクール毎に対策するのが良いと思います。極論ですが上手い人はどのコンクールでも上位になります。
最後に 結果は後からついてくる
「審査」「正確性」「ミスの少なさ」などシビアな言葉がたくさん出てきました。しかし
コンクールでやるべきことはただ1つ「自分の音楽を表現すること」
これだけです。
演奏中は「審査」「ミス」のことは忘れましょう。そしてやってきたことを全て出せるように集中しましょう。
審査や入賞は演奏後のご褒美として結果的についてくるものです。
この順番を間違えないようにコンクールに向けて頑張ってください。
この記事を読んでくれた方が入賞できるように祈っております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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